旅先で出会ったスタバ
【雑記帳】
2000年代(ゼロ年代)、旅先で探すカフェは、ジャズ喫茶を除けばスターバックスだった。原稿を書いたり、ものを考えるとき、いい環境を提供してくれた。
今はいろいろなカフェが他にもできたし、こだわりが消えた。むしろ若人たちで賑わいぎるようで退き気味だ。
でも旅先で思いがけない店構えのスタバに出会うこともある。都内の店舗のように席が密着していないのもよい。古建築を活かしたり、環境に合わせたりしているよう。悪いことではない。
旅先で出会ったスタバ――。
多賀城市立図書館店
弘前公園前店
京都三条大橋店
太宰府天満宮表参道店
奈良猿沢池店
◎多賀城市立図書館店 (多賀城市)

2010年代のこと。宮城県涌谷町での取材を終え、JR石巻線の涌谷駅から石巻経由で仙石線の多賀城駅へ出た。
翌朝、目的地の多賀城跡へ向う行き帰りで見かけたのが多賀城市立図書館。
公立図書館の吹き抜けの広い空間に、蔦屋書店とスターバックスが併設。というか空間内にうまく組みこまれていた。以前、「Brutus」だったか、その手の雑誌で紹介されていた記憶が甦る。
結局、その日の夕暮れと翌朝、お邪魔し原稿書きなどに利用させてもらった。
天井が高い空間。周囲に書棚、書物が配される中でコーヒーを飲む。
学生さんが多かったが、市民の皆さんにとっては恵まれた憩いの場だろうな。

◎弘前公園前店(弘前市)

今年、弘前市取材の最後に弘前市役所に向かった(弘前市上白銀町)。弘前城のお堀に近いところに、スターバックスが店を構えていた。10年ほど前に、改装されオープンしたよう。
保存されていた国有形文化財「旧第八師団の長官舎」を活かした空間。会議室や和室、控え室などを改装したようで、私が腰掛けたのはかつて和室だったところ。たしかに歴史を感じさせるなる雰囲気。ガラス窓の外に市役所の建物が見えた。
朝早めの時間だったこともあるのだろう、人も少なくとても落ち着く空間。いいひとときが持てた。


◎京都三条大橋店(京都市)

京都市内にスタバはたしか10件以上ある。仮住まいしていた2000年代(なので旅先とは言いがたいが)によく通ったのが、京都三条大橋店。ずいぶんとお世話になった。ポメラを持参してよく原稿を書いていたものだ。
鴨川に架かる三条大橋の袂。1階からは鴨川を見下ろし、静かでゆったりした地階の席からは東山が望める。写真は1階でのものだが、おすすめは地階。
ただ、近年はガイジンさんが多くて、ゆったりできるだろうか。

◎太宰府天満宮表参道店 (太宰府市)
数年前、7月に入ったばかりなのに猛暑の朝。太宰府天満宮に向かう参道で見つけた。体を冷やすために入りたかったが、若者たちでぎっしり。素通りとなった。
太い角材を用いた奇抜なデザインの店。調べてみれば、設計は隈研吾氏だった。やはり。

◎奈良猿沢池店 (奈良市)
昨秋、生駒・金剛山地での仕事を終え、奈良市街に入る。
国立博物館へ寄ったあと、興福寺の境内を散策し、猿沢池(さるさわのいけ)に出た。
単なる溜め池のようにしか見えないが、そこには昔話が残されている。中学の修学旅行時にこの池に因む伝説を知ってからは、つい惹き寄せられてしまう。奈良時代、帝の寵愛を受けた采女が、その後呼ばれることがなくなったことを悲しみ、月夜にこの池に身を投じた。そんな悲恋の伝説だ。

夕暮れ、すでに陽が沈み、空は色を失い始めていた。池の前に出ると、あまり耳にしない外国語の大きな声が周辺一帯に響いている。
声の主は、池に面するスタバの表席に腰掛ける中東系のガイジンさん。母国の人と通話しているのだろうか、スマホを耳にあて、ずうっと大声でしゃべり続けている。ほとりに建つ采女神社の霊もさぞびっくりしたことだろう。
店に入るのを避け、先に池の周囲を歩いた。池の水面には、夕陽の残影を背景にしたスタバ店の灯りが映る。
変にきらびやかな土産物店や飲食店ができるよりは、伝説の地の景観を妨げまいとする配慮が感じられた。
そういえば、今世紀初頭までJR奈良駅舎として使われていた旧駅舎内にも、「JR奈良駅旧駅舎店」がこじんまりと店を構えている。


