森 大翔 「オテテツナイデ」

【偏愛名曲】

羅臼からやって来た19歳 超絶技巧ギターと歌の融合


 FMラジオからこの楽曲が流れてきたとき、作業中のキーボード入力の手が止まってしまった。
 紹介する娘さんがぼそぼそっと語る曲名を聞きとれなかったので、慌ててネットを辿り、歌手と曲の名を確認した。
 森大翔の「オテテツナイデ」。名は“もり やまと”と読むそうだ。

 森さんは、曲をつくり、詞をつくり、歌い手であり、なによりもギター奏者である。
 2003年生まれだから19歳で、今月二十歳になる。
 まさに今世紀が生みだした、恐るべき才能だろう。いや、私が知らないだけで、ほかにも同じように素晴らしい才能、感性が生まれつつあるのかもしれない。

 孫世代にあたる若者の感性と世界は、爺さんにとってはずいぶん遠くに位置しているはずなのに、鈍りつつある私の感性すら揺さぶる力をもっている。切れ味がよい。

◎10代最後に発表したファーストアルバム “69 Jewel Beetle”

“69 Jewel Beetle” © A-Sketch.Inc

 今日の若いミュージシャンがそもそもアルバムを出すものなのか知らないが、しばらく注目していたら、CDが5月31日に発売されるという。すぐに購入してみた。タワーレコードでは通常のオンライン販売すらしておらず、都内で取り扱う店舗も渋谷店に限定されていた。まだまだマイナーな存在なのだ。

 アルバム名は、“69 Jewel Beetle”。意味深である。どんな想いがこめられているのだろう。
 「オテテツナイデ」だけでない。収録された全13曲、それぞれが輝いている。「剣とパレット」、「すれ違ってしまった人達へ」「たいしたもんだよ」などのほか、バラード風の「君の目を見てると」、「歌になりたい」であっても、ドライヴ感が心地よい。
 楽曲ごとに、ギターの演奏法と音色が異なるのも楽しみだ。

◎この才能のルーツ

 戦後(つまり、70年以上前)から振り返ると、洋楽(ポップス)分野は、欧米曲のコピーから始まった。エルヴィス・プレスリー、ポール・アンカ、ニール・セダカ、デル・シャノン、あるいはクリーム、ローリング・ストーンズ、B・B・キング……。
 そして、ビートルズ。1970年代、80年代に出現した日本のバンドは、おおむねビートルズの影響を受けたはずだ。それらをコピーしながら、少しずつ自分のオリジナリティを伸ばしていった。

 しかし、この青年は、そもそも欧米コピーあるいは欧米の楽曲を「規範」として学ぶという過程を経ていないのだろう。せいぜい、多様な教材のひとつとして受けとめているくらいではないか。今日の日本と世界の混沌とした状況(の到達点)から素直に吸収して表現しているのにちがいない。ときには、ラップ、フラメンコ、インドシタールなどに近い味付けも、ちらっと施している。

 ギターの技巧を特定の誰かと比べるだけの耳を私はもっていないが、卓越していることは確かだ。16歳のとき、ロンドンで開催のギター世界大会「Young Guitarist of the Year 2019」に出場し優勝という経歴ももつ。
 にもかかわらず、技巧がひとり歩きしたり、浮いていない。楽曲の中にぴったりと収まっている。技巧に必然性が感じられる。

 しかも、生まれ育ったのは、北海道の羅臼町だ。この地名からすぐ浮かぶのが武田泰淳『ひかりごけ』くらい、というのは私の知の浅薄を示すだけだが、自然がじつに豊かで厳しい土地でもある。

 ロック、ブルース、ジャズ、ラップ、Jポップス……そうした個別範疇には収まらないミュージシャンは昨今たくさん出てきているようだが、羅臼の地から生まれたこの才能・感性に、日本列島文化の新たな可能性を見出したい気持ちに駆られる。

◎日本列島に流れる通奏低音の響きが

 彼の音楽の魅力はどんなところにあるのだろう。

“69 Jewel Beetle” © A-Sketch.Inc

 聴きこんでみると、このアルバム全体は、ある種の“なつかしさ”を響かせている、ように感じられる。
 超絶的なギターの技巧を駆使し、ロック的ブルース的な要素が色濃い音楽であるにもかかわらず、旋律ののびやかで、かつ意表を衝く展開と、社会批評や恋の詞の背後から、日本列島に今も通奏低音のように流れている響きがかすかにきこえてくる。

 感性とは、自己と自己の距離のとり方、他者との、さらには社会・世界との距離のとり方とも言い換えられる。べったり密着するでもなく、逆に冷たく突き放すでもなく、適度な距離を、この若者は保っている。それが、彼のギター、詞、声に素直に表現されている。その距離感に共感できるのだろう。

 二十歳前後は人生にとってじつに大切な時期だ。これからどんな他者、共演者と出会うのか、どんな時代の波をかぶり、揺さぶられるのか、彼のこれからを大きく左右する。
 けれども、初めてのアルバムに凝縮されたこの世界は、今後もこの若者の原点であり続けることは間違いない。
 「オテテツナイデ」という楽曲、また、ファーストアルバム、さらに彼の「成長」に幸いあれ!

「オテテツナイデ」 YouTube

“69 Jewel Beetle”公式サイト

 

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